テーマ:NPO法人会計基準
NPO法人会計基準について、制度会計(会社法、金融商品取引法、税法)が尊重すべき「企業会計原則」と比較しながら、その特徴を分かりやすく解説します。
全8回の最終回の今日は、財務諸表の注記について見ていきたいと思います。
【企業会計原則とは】
企業会計の実務のなかに慣習として発達したもののなかから、一般に公正妥当と認められたところを要約したものです。企業会計原則は、1982年以来、修正が行われておらず、その後、時代に対応して会計基準が順次公表され、会計慣行を補強しています。
会計基準は、企業会計原則に優先して適用されるべき基準とされ、公正なる会計慣行に含まれると解釈されています。つまり、企業会計原則は会計全般の公正なる会計慣行をまとめたものであり、個々の論点に関する会計慣行は、各会計基準に委ねられているのです。
【財務諸表の注記】
NPO法人会計基準(同注解) |
企業会計原則(同注解) |
解説 |
<財務諸表の注記> 31.財務諸表には、次の事項を注記する。 |
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(1)重要な会計方針 ■資産の評価基準及び評価方法 ■固定資産の減価償却方法 ■引当金の計上基準 ■施設の提供等の物的サービスを受けた場合の会計処理方法 ■ボランティアによる役務の提供を受けた場合の会計処理の取扱い 等、 財務諸表の作成に関する重要な会計方針 |
[注1-2]重要な会計方針の開示について 財務諸表には、重要な会計方針を注記しなければならない。 会計方針とは、企業が損益計算書及び貸借対照表の作成に当たって、その財政状態及び経営成績を正しく示すために採用した会計処理の原則及び手続並びに表示の方法をいう。 会計方針の例としては、次のようなものがある。 [注1-3]重要な後発事象の開示について 後発事象とは、貸借対照表日後に発生した事象で、次期以降の財政状態及び経営成績に影響を及ぼすものをいう。 重要な後発事象を注記事項として開示することは、当該企業の将来の財政状態及び経営成績を理解するための補足情報として有用である。 重要な後発事象の例としては、次のようなものがある。 |
会計は、利害関係者が法人の実態を正しく把握し、理解できるように明瞭な表示を求めています。(明瞭性の原則)
この明瞭表示の要求として求められるのが、「重要な会計方針」、「重要な後発事象」その他の「注記」です。注記は、活動計算書や貸借対照表に掲げられている重要項目の内容、金額等について、補足的説明を加えたものです。 注記事項を充実させることで、計算書類の明瞭性が高まり、有用な会計情報を提供することができるため、積極的な開示が求められます。 |
(2)重要な会計方針を変更したときは、その旨、変更の理由及び当該変更による影響額 | [注3]継続性の原則について 正当な理由によって、会計処理の原則又は手続に重要な変更を加えたときは、これを当該財務諸表に注記しなければならない。 |
いったん採用した会計処理方法は毎期継続して適用するのが原則ですが、その変更に正当な理由があり、かつ、変更により従来の方法よりも合理的な結果が期待できる場合には、会計方針を変更することが認められます。 その場合は、その旨、変更の理由及び当該変更による影響額を計算書類に注記する必要があります。 |
(3)事業費の内訳又は事業別損益の状況を注記する場合には、その内容 |
【セグメント情報等の開示に関する会計基準】 (セグメント情報の開示項目) |
複数の事業を行う場合は、事業の種類ごとに事業費の内訳を表示するか、あるいは、収益も含めて事業別及び管理部門別に損益の状況を表示するか、いずれかの方法で計算書類に注記します。
その際、一番上にその事業年度に行った事業の名称と管理部門を並べて表示し、その区分ごとに |
( 4)施設の提供等の物的サービスを受けたことを財務諸表に記載する場合には、受入れたサービスの明細及び計算方法 |
ー | 施設の提供等の物的サービスを受けたことを計算書類に記載する場合は、情報の利用者の便宜性に配慮し、当該金額の算定根拠が明らかになるように、受入れたサービスの内容、金額、その算定方法などの詳細な記載をします。 その際、物的サービスの受入れを注記する場合は合理的な算定方法を記載し、活動計算書に計上する場合は客観的な算定方法を記載します。 |
(5)ボランティアとして、活動に必要な役務の提供を受けたことを財務諸表に記載する場合には、受入れたボランティアの明細及び計算方法 | ー | ボランティアとして、活動に必要な役務の提供を受けたことを計算書類に記載する場合は、情報の利用者の便宜性に配慮し、当該金額の算定根拠が明らかになるように、受入れたボランティアの内容、金額、その算定方法などの詳細な記載をします。 その際、ボランティアによる役務の提供の受入れを注記する場合は合理的な算定方法を記載し、活動計算書に計上する場合は客観的な算定方法を記載します。 |
(6)使途等が制約された寄付等の内訳 | ー | 当期に収益として計上された使途等が制約された寄付金、助成金、補助金等については、その内容、正味財産に含まれる期首残高、当期増加額、当期減少額、正味財産に含まれる期末残高等を明確に記載します。 |
(7)固定資産の増減の内訳 |
【財務諸表等規則】 二 有形固定資産等明細表 |
有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産について、科目ごとに、「期首取得価額」「当期増加額」「当期減少額」「期末取得価額」「減価償却累計額」「期末帳簿価額」を記載します。 |
(8)借入金の増減の内訳 |
四 借入金等明細表 |
借入金について、科目ごとに、「期首残高」「当期増加額」「当期減少額」「期末残高」を記載します。 |
(9)役員及びその近親者との取引の内容[注7] | 役員及びその近親者との取引については、その取引金額を確実に注記する必要があります。 なお、取引の相手方との関係、取引内容、取引条件等についての記載は、法人の任意とされています。 |
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[注7] 役員及びその近親者との取引の注記 <役員及びその近親者の範囲> 23.役員及びその近親者は、以下のいずれかに該当する者をいう。 (1)役員及びその近親者。(2親等内の親族) (2)役員及びその近親者が支配している法人。 <注記の除外> |
【関連当事者の開示に関する会計基準】 (関連当事者との取引に関する開示) |
役員及び近親者との取引の透明性を確保し、不公正なお金の流れがないかどうかを利害関係者がチェックできる仕組みを担保するため、NPO法人と役員及びその近親者との間の取引は原則として注記を要します。これは、NPO法人に限らず、役員やその近親者あるいは役員の関係会社等を通じて、社会的信頼を損なうような取引が行われる恐れは往々にしてあるため、事実を示すことによってそのような疑念を払い、信頼性を確保するという情報開示の基本的考え方に基づく要請です。 NPO法人と役員及びその近親者との間にまったく取引がない場合や金額的重要性が低い場合には注記の必要はありません。 重要性が乏しいとして注記する必要がないのは、活動計算書に属する取引については、「発生金額」が100万円以下の取引、貸借対照表に属する取引については、「発生金額及び残高」が100万円以下の取引です。この100万円という金額は、一つ一つの取引金額ではなく、役員ごとに、かつ勘定科目ごとに、年間の合計金額で考えます。また貸借対照表に属する取引、つまり固定資産の購入や借入取引などは、「発生金額及び残高」で考えますから、仮に残高が100万円以下であって なお、役員に対する報酬、賞与及び退職慰労金の支払い並びにこれらに準ずる取引の注記は法人の任意とされています。 |
(10)その他NPO法人の資産、負債及び正味財産の状態並びに正味財産の増減の状況を明らかにするために必要な事項 |
【財務諸表等規則】 第八条の二 会計方針については、次に掲げる事項を注記しなければならない。ただし、重要性の乏しいものについては、注記を省略することができる。 一~九 省略 十 その他財務諸表作成のための基本となる重要な事項 |
例えば、以下のような事項のうち重要性が高いと判断される事項が存在する場合には、当該事項を記載します。 ・現物寄付の評価方法 ・事業費と管理費の按分方法 ・貸借対照表日後に発生した事象で、次年度以降の財産又は損益に影響を及ぼすもの(後発事象) ・その他の事業に固有の資産を保有する場合はその資産の状況及び事業間で共通的な資産(後者については按分不要) |