NPO法人会計基準について~収益及び費用の把握と計算(その2)

テーマ:NPO法人会計基準

 

NPO法人会計基準について、制度会計(会社法、金融商品取引法、税法)が尊重すべき「企業会計原則」と比較しながら、その特徴を分かりやすく解説します。

収益及び費用の把握と計算(その2)について前半と後半に分けて見ていきたいと思います。

第5回の今日は、収益及び費用の把握と計算(その2)の後半として、外貨建取引、リース取引、引当金と複数事業の事業別開示について解説します。

また、その他の事業を実施する場合の区分経理についても説明します。

 

【企業会計原則とは】

企業会計の実務のなかに慣習として発達したもののなかから、一般に公正妥当と認められたところを要約したものです。企業会計原則は、1982年以来、修正が行われておらず、その後、時代に対応して会計基準が順次公表され、会計慣行を補強しています。

会計基準は、企業会計原則に優先して適用されるべき基準とされ、公正なる会計慣行に含まれると解釈されています。つまり、企業会計原則会計全般の公正なる会計慣行をまとめたものであり、個々の論点に関する会計慣行は、各会計基準に委ねられているのです。

 

【収益及び費用の把握と計算ーその2】

NPO法人会計基準(同注解)

企業会計原則(同注解)

解説

<外貨建取引の換算方法>
21.外貨建取引は、取引発生時の為替相場に基づく円換算額で計上しなければならない。
【外貨建取引等会計処理基準】

一 外貨建取引等

1 取引発生時の処理

外貨建取引は、原則として、当該取引発生時の為替相場による円換算額をもって記録する。

取引価額が外国通貨で表示されている取引を外貨建取引といいます。

外貨建取引発生したときに円換算する場合には、その取引が発生した日の為替レートで換算します。

《設例》

ドル建て500ドルの物品の購入について、設例を示すと次のようになります。

[1]購入時(3月10日、当日の為替レートは90円/ドル)

取引発生時の為替レートが90円/ドルであるため、円貨額90円×500ドル=45,000円で計上します。

[注2]
<外貨建債権債務>
14.外国通貨、外貨建金銭債権債務(外貨預金を含む)、外貨建有価証券等については、決算時の為替相場に基づく円換算額を付する。
【外貨建取引等会計処理基準】

一 外貨建取引等

2 決算時の処理

(1) 換算方法

外国通貨、外貨建金銭債権債務、外貨建有価証券及び外貨建デリバティブ取引等の金融商品については、決算時において、原則として、次の処理を行う。

① 外国通貨

外国通貨については、決算時の為替相場による円換算額を付する。

② 外貨建金銭債権債務(外貨預金を含む。)

外貨建金銭債権債務については、決算時の為替相場による円換算額を付する。

③ 外貨建有価証券

イ 満期保有目的の外貨建債券については、決算時の為替相場による円換算額を付する。

ロ 売買目的有価証券及びその他有価証券については、外国通貨による時価を決算時の為替相場により円換算した額を付する。

ハ~ニ 省略

④ 省略

期末に外貨建ての資産・負債がある場合は、期末日の為替レートで換算します。

《設例》

ドル建て500ドルの物品の購入について、設例を示すと次のようになります。

[2]決算時(3月31日、決算日の為替レートは95円/ドル)

期末日現在において500ドルの未払金残高がありますので、決算時の為替レート95円/ドルで換算替えし、円貨額95円×500ドル=47,500円で貸借対照表に計上します。為替換算により生じた差額5円×500ドル=2,500円は活動計算書に計上します。

決算日において生じた為替換算損益は、「為替差損」もしくは「為替差益」で処理し、「為替差損」は経常費用として、「為替差益」は経常収益として計上します。

 

[3]支払時(4月30日、当日の為替レートは100円/ドル)

4月30日の為替レートで計算した円貨額100円×500ドル=50,000円を支払います。したがって、決算時の為替レートと異なるために決済時に生じた差額5円×500ドル=2,500円は活動計算書に計上します。

決済日において生じた為替決済損益は、「為替差損」もしくは「為替差益」で処理し、「為替差損」は経常費用として、「為替差益」は経常収益として計上します。

[注2]
<リース取引>
15.リース取引については、事実上物件の売買と同様の状態にあると認められる場合には、売買取引に準じて処理する。ただし、重要性が乏しい場合には、賃貸借に準じて処理することができる。
【リース取引に関する会計基準】

(ファイナンス・リース取引の会計処理)
9. ファイナンス・リース取引については、通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理を行う。

 

【リース取引に関する会計基準の適用指針】

(少額リース資産及び短期のリース取引に関する簡便的な取扱い)
34. 個々のリース資産に重要性が乏しいと認められる場合は、オペレーティング・リース取引の会計処理に準じて、通常の賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理を行うことができる。

リース取引については、事実上売買と同様の状態にあると認められる場合には、売買取引に準じて処理します。ただし、重要性が乏しい場合には、賃貸借取引に準じて処理することができます。

売買取引に準じて処理」するリース取引は、リース取引が事実上物件の売買と同様の状態にあると認められる場合です。リース取引が事実上物件の売買と同様の状態にあると認められる場合とは、
①(解約不能)リース契約に基づくリース期間の途中で、契約を解除することができないリース取引で、
②(フルペイアウト)リース料総額がそのリース資産を実際に購入した場合とほとんど変わらない、または、リース期間がそのリース資産の経済的耐用年数とほとんど変わらない
場合をいい、このようなリース取引を「ファイナンス・リース取引」と呼びます。

売買取引に準ずる処理」では、固定資産を新規に購入した場合と同様に、その固定資産をリース資産として貸借対照表に計上し、その資産に対して毎期減価償却を行ないます。また、リース会社に対する債務をリース債務として負債の部に計上し、毎月一定額の支払の都度、その負債の残高を減らしていくという会計処理をします。

賃貸借取引に準ずる処理」では、リース会社にリース料を支払ったときにその金額を費用として計上します。

[注2]
<引当金>
16.将来の特定の費用又は損失であって、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、かつその金額を合理的に見積ることができる場合には、当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰入れる。
[注18] 引当金について
将来の特定の費用又は損失であって、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合には、当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰入れ、当該引当金の残高を貸借対照表の負債の部又は資産の部に記載するものとする。

引当金が計上できるのは、次のすべての要件を満たしたときです。

[1]将来の特定の費用又は損失であって、

[2]その発生が当期以前の事象に起因し、

[3]発生の可能性が高く、

[4]その金額を合理的に見積ることができる

代表的な例が、評価性引当金である貸倒引当金や負債性引当金である賞与引当金、退職給付引当金です。

引当金を計上する場合には、以下のように引当金の計上基準を重要な会計方針として注記する必要があります。

(3)引当金の計上基準

イ 貸倒引当金
債権の貸倒れによる損失に備えるため、一般債権については貸倒実績率により、貸倒懸念債権等特定の債権については個別に回収可能性を勘案し、回収不能見込額を計上しております。

ロ 賞与引当金
従業員の賞与の支給に備えるため、翌期賞与支給見込額のうち当事業年度に帰属する部分の金額を計上しております。

ハ 退職給付引当金
従業員の退職給付に備えるため、当事業年度末における退職給付債務及び年金資産の見込額に基づき計上しております。

【退職給付引当金について】

確定給付型退職給付制度を採用している場合は、原則的に数理計算によって退職給付債務の金額を算定することになります。

しかし、退職一時金制度において、退職給付の対象となる職員数が300人未満のNPO法人、または、職員数が300人以上のNPO法人であっても年齢や勤務期間に偏りがあるなどにより原則法による計算結果に一定の高い水準の信頼性が得られないと判断される場合には、期末の退職給付の要支給額を用いた見積計算を行う等の簡便な方法によることができます。

期末要支給額は当該事業年度末において、職員が全員自己都合により退職したとするといくらになるかを算定した金額となります。

この場合の重要な会計方針の注記は、次のようになります。

ハ 退職給付引当金
従業員の退職給付に備えるため、当事業年度末における退職給付債務の見込額に基づき計上しております。なお退職給付債務は期末自己都合要支給額に基づいて計算しています。

<複数事業の事業別開示>
22.事業費は、事業別に区分して注記することができる。その場合収益も事業別に区分して表示することを妨げない。

【セグメント情報等の開示に関する会計基準】

(セグメント情報の開示項目)
17. 企業は、セグメント情報として、次の事項を開示しなければならない。
(1) 報告セグメントの概要
(2) 報告セグメントの利益(又は損失)、資産、負債及びその他の重要な項目の額並びにその測定方法に関する事項

(3) 省略

複数の事業を行う場合は、計算書類の注記において、事業の種類ごとに事業費の内訳を表示するか、あるいは、収益も含めて事業別及び管理部門別に損益の状況を表示するか、いずれかの方法が推奨されます。

その際、一番上にその事業年度に行った事業の名称と管理部門を並べて表示し、その区分ごとに
収益は「受取会費」「受取寄付金」「事業収益」、
費用は「給与手当」「地代家賃」「旅費交通費」
といった勘定科目ごとの金額を記載するようにします。

【その他の事業を実施する場合の区分経理】

NPO法人会計基準(同注解)

企業会計原則(同注解)

解説

<特定非営利活動以外の事業を実施する場合の区分経理>
23.特定非営利活動に係る事業の他に、その他の事業を実施している場合には、活動計算書において当該その他の事業を区分して表示しなければならない。
<損益計算書原則>
(二 損益計算書の区分)
A 二つ以上の営業を目的とする企業にあっては、その費用及び収益を主要な営業別に区分して記載する。

特定非営利活動促進法は、第5条2項において、「その他の事業に関する会計は、当該特定非営利活動法人の行う特定非営利活動に係る事業に関する会計から区分し、特別の会計として経理しなければならない」と区分経理について規定しています。
このため、法人が定款にその他の事業を掲げて、特定非営利活動に係る事業以外の事業を行っている場合には、活動計算書を「特定非営利活動に係る事業」と「その他の事業」に区分して表示しなければなりません。
定款には掲げていても、実際にはその他の事業を行っていない場合は、「その他の事業」欄すべてに「0」を記載するか、活動計算書に「その他の事業」欄は設けずに、脚注においてその旨(※今年度はその他の事業を実施していません。)を記載します。

 

このように、その他の事業を行っている場合は、活動計算書を区分して表示しますが、貸借対照表について区分するとなると実務的に相当複雑になり、NPO法人の事務負担が増大するため、貸借対照表を区分して表示するかどうかは、法人の任意となっています。