テーマ:NPO法人会計基準
NPO法人会計基準について、制度会計(会社法、金融商品取引法、税法)が尊重すべき「企業会計原則」と比較しながら、その特徴を分かりやすく解説します。
収益及び費用の把握と計算(その2)について前半と後半に分けて見ていきたいと思います。
第4回の今日は、費用性資産である棚卸資産と固定資産についてです。
【企業会計原則とは】
企業会計の実務のなかに慣習として発達したもののなかから、一般に公正妥当と認められたところを要約したものです。
【収益及び費用の把握と計算ーその2】
NPO法人会計基準(同注解) |
企業会計原則(同注解) |
解説 |
<事業収益> 17.棚卸資産の販売又はサービスを提供して対価を得る場合は、販売又はサービスを提供したときに収益として計上し、対価の額をもって収益の額とする。 |
<損益計算書原則> (一 損益計算書の本質) A すべての費用及び収益は、その支出及び収入に基づいて計上し、その発生した期間に正しく割当てられるようにしなければならない。ただし、未実現収益は、原則として、当期の損益計算に計上してはならない。 |
「受取会費」は、対価性がないため、回収可能性の観点から、実際に入金したときに収益として計上し、未収会費は回収が確実なものだけを当期の収益として計上します。 一方で、介護サービスやスポーツクラブ会費のように、「サービスや施設の利用を受けるための会費」などは、会費と提供されるサービスとの間には明白な対価関係があるため、この場合の受け取った会費は、事業収益の一部を構成するものと考えられます。
ここで、収益には確実性と処分可能性が要求され、事業収益の認識は、原則として実現主義によって行われます。 実現主義とは、次の「実現」の2要件を満たしたときに収益を認識する考え方です。 ①財貨または役務の提供を第三者に対して行うこと ②第三者からその対価として、現金、売掛金などの貨幣性資産を受領すること |
<棚卸資産の計上> 18.販売して対価を得るための棚卸資産は、購入又は製造した時点では費用とせず、実際に販売した時に費用とする。事業年度末において販売していない棚卸資産は貸借対照表に流動資産として計上する。 |
<貸借対照表原則> (五 資産の貸借対照表価額) 資産の取得原価は、資産の種類に応じた費用配分の原則によって、各事業年度に配分しなければならない。 |
期間損益を正しく計算するために、いずれ費用となるべき支出額を当期と次期以降に配分することを、費用配分の原則といいます。 費用配分の原則によって、棚卸資産や建物などの固定資産の取得価額のうち、その費消部分を当期の費用として配分するとともに、未費消部分を資産として残し、次期以降に配分することになります。 |
[注2] <資産の貸借対照表価額> 10.資産の貸借対照表価額は、原則として、当該資産の取得価額に基づき計上しなければならない。 |
(五 資産の貸借対照表価額) 貸借対照表に記載する資産の価額は、原則として、当該資産の取得原価を基礎として計上しなければならない。 |
現行の制度会計では、原則的に資産は取得原価主義で評価されます。 取得原価とは、文字どおり、資産を取得したときの金額です。取得原価は、過去に経験した評価額であるため、検証可能であり、明瞭、簡便、かつ、統一性のある方法です。また、取得原価主義においては、資産の評価で評価益が計上される余地はありません。 |
ただし、資産の時価が著しく下落したときは、回復の見込みがあると認められる場合を除き、時価をもって貸借対照表価額としなければならない。 | (五 資産の貸借対照表価額) A ただし、時価が取得原価より著しく下落したときは、回復する見込みがあると認められる場合を除き、時価をもって貸借対照表価額としなければならない。 |
時価のある資産の時価が「著しく下落した」ときは、「回復の見込みがあると認められる場合」を除き、時価をもって貸借対照表価額としなければなりません。 「著しく下落した」ときとは、必ずしも数値化できるものではありませんが、時価が取得原価に比べて50%程度以上に下落した場合は、「著しく下落した」ときに該当します。 |
[注2] <棚卸資産> 11.棚卸資産は、取得価額をもって貸借対照表価額とする。ただし、時価が取得価額よりも下落した場合は、時価をもって貸借対照表価額とすることができる。 |
(五 資産の貸借対照表価額) A たな卸資産については、原則として取得原価をもって貸借対照表価額とする。 たな卸資産の貸借対照表価額は、時価が取得原価よりも下落した場合には時価による方法を適用して算定することができる。 |
棚卸資産は、取得価額と時価とを比較して、どちらか低いほうの価額で評価することができます。これを低価法といいます。
企業は、多くの利害関係者に囲まれて事業活動を行っており、その健全な発展のため、予想される将来の危険に備えて、慎重な判断に基づく会計処理が要求されます。 |
<固定資産の計上> 19.購入した固定資産は、原則として当該資産の取得価額を基礎として計上しなければならない。 |
(五 資産の貸借対照表価額) 貸借対照表に記載する資産の価額は、原則として、当該資産の取得原価を基礎として計上しなければならない。 |
【固定資産と消耗品費の相違について】 会計実務上は、法人税法施行令第133条を参考とし、1年を超える期間において使用する10万円以上の資産を固定資産とみなすのが、一般的な目安となっています。 多くの企業や団体では、これを一つの判断基準として、1個または1組の取得価額が10万円未満であれば消耗品費などの費用とし、10万円以上であれば備品などの固定資産として会計処理しており、NPO法人も同様に、1個または1組の取得価額が10万円未満か以上かで、費用として計上するか固定資産として計上するかを判断してよいと考えられます。 |
[注2] <固定資産> 12.有形固定資産及び無形固定資産は、取得価額から減価償却累計額を差し引いた価額をもって貸借対照表価額とする。 固定資産の取得価額は、購入の代価に、運送、据え付け等のための付随費用を加えた価額をいう。 |
(五 資産の貸借対照表価額) D 有形固定資産については、その取得原価から減価償却累計額を控除した価額をもって貸借対照表価額とする。有形固定資産の取得原価には、原則として当該資産の引取費用等の付随費用を含める。 E 無形固定資産については、当該資産の取得のために支出した金額から減価償却累計額を控除した価額をもって貸借対照表価額とする。 |
有形固定資産は、その資産を取得した後、事業活動に使用され、その経済的価値(経済的効用)が徐々に減少します。 無形固定資産も、通常、時の経過とともに収益力の効果が実現されていきます。 そのため、固定資産は時の経過に伴って減少した価値を費用化する必要があり、この価値の減少分を減価償却費といいます。 固定資産は、棚卸資産と同様に取得時は取得原価で評価され、その後の減価償却によって、計画的・規則的に費用配分が行われます。 |
<減価償却費の計上> 20.貸借対照表に計上した固定資産のうち、時の経過等により価値が減少するものは、減価償却の方法に基づき取得価額を減価償却費として各事業年度に配分しなければならない。 |
<貸借対照表原則> (五 資産の貸借対照表価額) 有形固定資産は、当該資産の耐用期間にわたり、定額法、定率法等の一定の減価償却の方法によって、その取得原価を各事業年度に配分し、 無形固定資産は、当該資産の有効期間にわたり、一定の減価償却の方法によって、その取得原価を各事業年度に配分しなければならない。 |
固定資産の価値(経済的効用)が減少していく理由には、物質的な要因と機能的な要因があります。 物質的な要因としては、時の経過による老朽化と、使用による自然的な減耗・損耗等があります。 機能的な要因としては、新開発・新発明によってすぐれた設備が登場したことによる価値の低下、いわゆる陳腐化が挙げられます。 減価償却は、このような減価要因を認識するために、固定資産の取得原価をその使用可能な期間(耐用年数)にわたって、一定の規則的な方法に従って配分する会計手続です。 この減価償却の方法には、主に「定率法」、「定額法」等があり、法人がその適用方法を選択します。 また、恣意的な耐用年数の決定を排除するという観点から、法人税法における耐用年数を使用するのが一般的です。 他の人から寄付でもらった固定資産についても、時の経過により価値が減少するものであれば、減価償却をする必要があります。 なお、土地や骨とう品などのように時の経過により価値が減少しない資産は、減価償却の対象とはなりません。 |