NPO法人のコンプライアンス~経済合理性からの考察

テーマ:NPO法(NPO法人の義務と責任)

 

こんにちは。東京都台東区上野・浅草で開業しているNPO法人専門の公認会計士・税理士事務所「アイケイ会計事務所」です。

 

今日はNPO法人のコンプライアンスについて、経済合理性の観点から考えてみたいと思います。

 

【NPO法人の情報公開】

はじめに確認しておきたいのが、「情報公開」がNPO法人の生命線であるということです。

 

NPO法はNPO法人に対して十分な情報公開を求めています。これは、「市民」が行う非営利活動を「市民」自らが監視するというNPO法の趣旨を踏まえたものであり、NPO法人は、他に例のないほどの情報公開が法の当初から要求されている法人形態なのです。

 

そして、「情報公開」において特に重要となるのが、外部報告としての会計報告です。

 

ここで、会計は大きく「外部報告会計」と「税務会計」に分けられます。前者は「情報利用者の保護」に、後者は「租税負担の公平」に重点が置かれ、外部報告会計の担い手として「公認会計士」が、税務会計の担い手として「税理士」が予定されています。

 

【NPO法人のコンプライアンス~コストの最小化】

NPO法人は、NPO法に基づいて会計報告を行うことが求められます。

NPO法は、会計に関して、次のような規定を置いています。

第二十七条(会計の原則)
二 会計簿は、正規の簿記の原則に従って正しく記帳すること。

これは、すべての取引が①漏れなく(網羅性)、②客観的な証拠資料に基づいて(検証可能性)、③一定の体系のもとに秩序立って(秩序性)、会計帳簿に記録されることを要求するものです。

また、認定NPO法人として認定を受けるためには、会計に関して、次のような基準に適合する必要があります。

第四十五条(認定の基準)
第1項第三号ハ その会計について、公認会計士若しくは監査法人の監査を受けていること又は内閣府令で定めるところにより帳簿及び書類を備え付けてこれらにその取引を記録し、かつ、当該帳簿及び書類を保存していること。

ここで、「内閣府令で定めるところ」とは、法人税法施行規則第53条から第59条までの規定に準じて行う青色申告法人と同等の取引記録・帳簿保存を意味し、具体的には、
①一切の取引を複式簿記の原則に従い、整然と、かつ、明りょうに記録し、その記録に基づいて決算を行うこと
仕訳帳総勘定元帳を備えること
③貸借対照表、活動計算書を作成すること、などが必要です。

 

できるだけ時間(コスト)をかけないで、法令を遵守(コンプライアンス)するためには、会計ソフトの利用がおすすめです。会計ソフトを利用すれば、相互に整然とした仕訳帳、総勘定元帳、決算書を簡単に作ることができます。

NPO法人のためのパソコン会計ソフトも数万円で販売されていますし、技術的なサポートもメーカーから無料で受けることができます。また、会計・税務の質問については、無料相談等をご利用いただければ、少ないコストでNPO法に準拠した会計報告を行うことができるでしょう。

 

【NPO法人のコンプライアンス~収益の最大化】

さらに、NPO法人は、NPO法人会計基準に準拠して会計報告を行うことが求められます。

 

NPO法人会計基準は「法律」ではないため、その採用が強制されるものではありません。

 

しかし、NPO法人会計基準は広く市民の意見を聞いて民間の手で作られた会計基準です。

NPO法人会計基準は、NPO法人の根幹をなす「情報公開」に資することを最重要の目的とし、情報の利用者である不特定多数の一般市民の視点を最上位において策定されており、これに従った会計報告を市民が期待していると言えます。

 

そもそも法は社会からの要請を体系化したものであり、単に明文化された「法令」を遵守するのみがコンプライアンスではありません。社会からの要請に応えるのが真のコンプライアンスなのですから、NPO法人が社会的責任を果たすためには、社会からの期待を反映したNPO法人会計基準に準拠した会計報告が求められるのです。

 

また、収益の観点からも、資金提供者である一般市民の期待に応え、信頼できる、透明性の高い情報開示を行うことが、支援者拡大につながり寄付金などの収益を最大化することになるでしょう。

 

資金提供者はNPO法人の開示情報を直接チェックすることができないので、その情報に対する疑念を完全に取り除くことはできません。ですから、NPO法人自らが利用者に対して積極的に情報を開示し、会計士などの専門家も利用して、適正な会計報告を行うための組織体制を整備し、さらには内部管理体制(内部統制)の整備を行い、そのような姿勢を一般市民に示すことで、より広く社会から支援を受けることができるのです。

 

重要なのは、「情報公開」がNPO法人制度の根幹であり、NPO法人はその充実のためにコストをかけなければならないということです。

そうしなければ、資金提供者であり、情報利用者である市民がコストを負担することになるということを忘れてはいけません。

報告書に重要性を有する情報が含まれない場合、報告書の想定利用者は、他の情報源から情報を取得するためにコストを負担することになるだけでなく、情報不足が原因で最適ではない決定を行うことになる可能性がある。(国際統合報告フレームワーク草案)