NPO法人会計基準について~財務諸表等の体系と構成

テーマ:NPO法人会計基準

 

NPO法人会計基準について、制度会計(会社法、金融商品取引法、税法)が尊重すべき「企業会計原則」と比較しながら、その特徴を分かりやすく解説します。

第2回の今日は、財務諸表等の体系と構成について見ていきたいと思います。

 

【企業会計原則とは】

企業会計の実務のなかに慣習として発達したもののなかから、一般に公正妥当と認められたところを要約したものです。

 

【財務諸表等の体系と構成】

NPO法人会計基準(同注解)

企業会計原則(同注解)

解説

<NPO法人の財務諸表等>
8.NPO法人は、財務諸表(活動計算書及び貸借対照表)及び財産目録を作成しなければならない。

~参考~法人税申告書の添付書類

法人税法施行規則

(確定申告書の添付書類)

第三十五条 法第七十四条第三項(確定申告書の添付書類)に規定する財務省令で定める書類は、次の各号に掲げるものとする。

当該事業年度の貸借対照表及び損益計算書

当該事業年度の株主資本等変動計算書若しくは社員資本等変動計算書又は損益金の処分表

第一号に掲げるものに係る勘定科目内訳明細書

省略

「活動計算書」は、事業年度におけるNPO法人の活動状況(事業の実績)を表す計算書で、一会計期間のフローの活動を表します。

「貸借対照表」は、事業年度末におけるNPO法人のすべての資産、負債及び正味財産の状態(財政状態)を表す計算書で、一時点のストックの状態を表します。

「財産目録」は、計算書類を補完する書類として、事業年度末時点におけるすべての資産及び負債を具体的にその種類、数量、価額を付して記載した書類です。

 

企業会計でもほぼ同様の書類の作成が求められています。

<活動計算書>
9.活動計算書は、当該事業年度に発生した収益、費用及び損失を計上することにより、NPO法人のすべての正味財産の増減の状況を明瞭に表示し、NPO法人の活動の状況を表すものでなければならない。 [注1]
<損益計算書原則>
(一 損益計算書の本質)
損益計算書は、企業の経営成績を明らかにするため、一会計期間に属するすべての収益とこれに対応するすべての費用とを記載して経常利益を表示し、これに特別損益に属する項目を加減して当期純利益を表示しなければならない。
活動計算書の本質は、以下の3つです。
一定期間の活動状況を明らかにすること。
②すべての収益と、すべての費用を記載して経常増減額を表すこと。
③経常増減額に経常外損益を加減算して、当期の正味財産の増減を表すこと。

「活動計算書」は、NPO法人の財務的生存力を把握しやすくするために、資金収支ベースの「収支計算書」から改めることになったものです。

<貸借対照表>
10.貸借対照表は、当該事業年度末現在におけるすべての資産、負債及び正味財産の状態を明瞭に表示するものでなければならない。 [注2]
<貸借対照表原則>
(一 貸借対照表の本質)
貸借対照表は、企業の財政状態を明らかにするため、貸借対照表日におけるすべての資産、負債及び資本を記載し、株主、債権者その他の利害関係者にこれを正しく表示するものでなければならない。
貸借対照表は、一時点の財政状態を表す計算書で、左側に「資産」、右側に「負債」と「正味財産」が表示され、左右はバランスします。(資産=負債+正味財産)
また、右側(負債+正味財産)は、どのように資金を調達したかという調達源泉を表し、左側(資産)は、その運用形態を表しています。

財政状態を正しく示す大原則は、すべての資産、負債、正味財産を漏れなく記載して、正しく表示することです。
したがって、簿外の資産・負債や架空の資産・負債の存在は許されません。

<財産目録>
11.財産目録は、当該事業年度末現在におけるすべての資産及び負債につき、その名称、数量、価額等を詳細に表示するものでなければならない。 [注3]

財産目録も法に基づいて外部公表される書類であるため、個人の特定につながる情報(口座番号など)の記載は必要とされていません。

 

NPO法人会計基準注解

[注1] 活動計算書の表示方法

NPO法人会計基準(同注解)

企業会計原則(同注解)

解説

<活動計算書の区分表示>
1.活動計算書は経常収益、経常費用、経常外収益及び経常外費用に区分する。
<損益計算書原則>
(二 損益計算書の区分)
損益計算書には、営業損益計算、経常損益計算及び純損益計算の区分を設けなければならない。
活動計算書では、
■すべての経常収益と、すべての経常費用を記載して、当期の経常増減額を計算し、
■経常増減額計算の結果を受けて、過年度損益修正損益、固定資産売却損益等の経常外損益を記載して、当期の正味財産増減額を計算します。
<経常収益>
2.経常収益は、NPO法人の通常の活動から生じる収益で、受取会費、受取寄付金、受取助成金等、事業収益及びその他収益等に区分して表示する。
活動計算書では、経常収益を
1.受取会費
2.受取寄付金
3.受取助成金等
4.事業収益
5.その他収益
に区分して表示します。

なお、会費として扱われる次の①~③については、それぞれ①及び②は「受取会費」の区分に、は「事業収益」の区分に計上します。
社員(正会員)たる地位にある者が会を成り立たせるために負担すべきもの(「正会員受取会費」等)
支出する側に任意性があり、直接の反対給付がない経済的利益の供与としての寄付金の性格を持つもの(「賛助会員受取会費」等)
サービス利用の対価としての性格を持つもの(「○○利用会員受取会費」等)

<経常費用>
4.経常費用は、NPO法人の通常の活動に要する費用で、費用の性質を表す形態別に把握し、人件費とその他経費に区分して表示しなければならない。
(三 営業利益)
F 販売費及び一般管理費は、適当な科目に分類して営業損益計算の区分に記載しなければならない。
NPO法人の経常費用は、
■「事業費」と「管理費」からなり、
■それぞれを人件費その他経費に分類したうえで、さらに形態別に分類して表示します。
この内訳表示は、NPO法人間の比較可能性やNPO法人のマネジメント等の観点から求められています。

「事業費」は、NPO法人が目的とする事業を行うために直接要する人件費及びその他経費をいいます。

「管理費」は、NPO法人の各種の事業を管理するための費用で、
総会及び理事会の開催運営費
管理部門に係る役職員の人件費
管理部門に係る事務所の賃借料及び光熱費等のその他経費
をいいます。

<経常外収益>
7.経常外収益は、NPO法人の通常の活動以外から生じる収益で、固定資産売却益等の臨時利益又は過年度損益修正益等が該当する。
ただし、金額の僅少なもの又は毎期経常的に発生するものは、経常収益の区分に記載することができる。
(六 特別損益)
特別損益は、前期損益修正益、固定資産売却益等の特別利益と前期損益修正損、固定資産売却損、災害による損失等の特別損失とに区分して表示する。[注12]
高額の受取寄付金など、本来の活動により発生したものの、予期しえなかった臨時の収益は、原則、経常活動による収益として、経常収益に計上します。
これを判断するうえで重要なことは、寄付金を得るための活動を、NPO法人が継続して行っているか否か、ということです。
寄付金はその金額の多寡から偶然性を排除することはできませんので、寄付金募集活動を継続して行っている場合は、金額の多寡によらず受取寄付金を経常収益に計上するのが適当と言えます。
<経常外費用>
8.経常外費用は、NPO法人の通常の活動以外から生じる費用又は損失で、固定資産売却損等の臨時損失又は過年度損益修正損等が該当する。
ただし、金額の僅少なもの又は毎期経常的に発生するものは、経常費用の区分に記載することができる。
[注12] 特別損益項目について
特別損益の属する項目としては、次のようなものがある。
(1)臨時損益
(2)前期損益修正
なお、特別損益に属する項目であっても、金額の僅少なもの又は毎期経常的に発生するものは、経常損益計算に含めることができる。
過年度損益修正損益、固定資産売却損益等の経常外損益は、原則として当期の経常増減額の計算に含めませんが、金額の僅少なもの又は毎期経常的に発生するものは、経常損益の区分に記載することができます。

 

[注2] 貸借対照表の表示方法及び計上額

NPO法人会計基準(同注解)

企業会計原則(同注解)

解説

<貸借対照表の区分表示>
9.貸借対照表は、資産の部、負債の部及び正味財産の部に区分する。
資産の部は流動資産及び固定資産に区分し、固定資産は、有形固定資産、無形固定資産及び投資その他の資産に区分する。負債の部は流動負債及び固定負債に区分する。
<貸借対照表原則> 
(二 貸借対照表の区分)
貸借対照表は、資産の部、負債の部及び資本の部の三区分に分ち、さらに資産の部を流動資産、固定資産及び繰延資産に、負債の部を流動負債及び固定負債に区分しなければならない。
貸借対照表は、流動性配列法を原則とし、以下の3部に分かれます。
■資産の部:流動資産、固定資産(有形、無形、投資その他の資産)
■負債の部:流動負債、固定負債
■正味財産の部

流動性配列法は、資産については換金化しやすいものから、負債についても支払期日の短いものから、上から下へ順次並べていく方法です。

また、流動と固定を区分する基準は、まず法人の主目的たる事業活動の循環にある資産・負債を流動に分類し(正常営業循環基準)、それに入らなかった資産・負債について、決算日の翌日から起算して1年以内に換金・決済されるものを流動に、1年を超えるものを固定に分類します(1年基準)。

<特定資産>
13.特定の目的のために資産を有する場合には、流動資産の部又は固定資産の部において当該資産の保有目的を示す独立の科目で表示する。
「特定資産」とは、特定の目的に使用するために保有している資産をいいます。「特定資産」は、目的を明示して計算書類に表示することになります。

例)「寄付者により使途等が制約されている資産」は、受入れる時点で使用目的が特定されていますので、受入れる時点で特定資産になります。ただし、使途の制約が解除されれば特定資産に該当しなくなります。
また、NPO法人自ら「特定資産」として指定した資産も保有目的を示す独立の科目で表示します。

 

[注3] 財産目録

NPO法人会計基準(同注解)

企業会計原則(同注解)

解説

<財産目録の記載価額>
17.財産目録の記載価額は、貸借対照表における計上金額と同一とする。ただし、金銭評価ができず貸借対照表に記載のない資産については、その物量をもって計上することができる。
財産目録は、金銭評価ができない資産についても、金額を記載する代わりに「評価せず」として記載することができます。