NPO法人会計基準について~収益及び費用の把握と計算(その1)

テーマ:NPO法人会計基準

 

NPO法人会計基準について、制度会計(会社法、金融商品取引法、税法)が尊重すべき「企業会計原則」と比較しながら、その特徴を分かりやすく解説します。

第3回の今日は、収益及び費用の把握と計算(その1)について見ていきたいと思います。

 

【企業会計原則とは】

企業会計の実務のなかに慣習として発達したもののなかから、一般に公正妥当と認められたところを要約したものです。

 

【収益及び費用の把握と計算ーその1】

NPO法人会計基準(同注解)

企業会計原則(同注解)

解説

<受取会費>
12.受取会費は、確実に入金されることが明らかな場合を除き、実際に入金したときに収益として計上する。[注1]

会費は対価性がないため、回収可能性の観点から、実際に入金したときに収益として計上し、未収会費は回収が確実なものだけを当期の収益として計上します。
実際に未収会費として計上する額は、
①納入の確約ができている未収会費
②期末日後、決算書を作成するまでの期間に実際に納入された未収会費

が考えられます。

[注1] 活動計算書の表示方法 
<受取会費>
3 .翌期以降に帰属すべき受取会費の前受額は、当期の収益とせずに負債の部に前受会費として計上しなければならない。
<損益計算書原則>
(一 損益計算書の本質) 
A 前払費用及び前受収益は、これを当期の損益計算から除去し、未払費用及び未収収益は、当期の損益計算に計上しなければならない。

【将来の会費の取扱いについて】

事業年度末近くに入会した会員から、翌期分の会費もまとめて入金された場合など、将来の会費は、翌期以降に帰属する会費を預かったことになるため、前受会費として負債に計上します。

 

経過勘定項目(前払費用、前受収益、未払費用、未収収益)は、収益や費用の認識を発生主義の原則で行うことの一つの例です。

ここで、発生主義とは、現金の受払いがあるなしにかかわらず、時間の経過に応じて収益または費用を認識する考え方で、現金の受払いに基づいて収益や費用を認識する現金主義と対になる概念です。

<受取寄付金>
13.受取寄付金は、実際に入金したときに収益として計上する。
受取寄付金は、実際に入金したときに収益として計上します。
<費用の区分>
14.NPO法人の通常の活動に要する費用は、事業費及び管理費に区分し、かつそれぞれを人件費及びその他経費に区分して表示する。[注1及び注4]
(三 営業利益)
F 販売費及び一般管理費は、適当な科目に分類して営業損益計算の区分に記載しなければならない。
NPO法人の経常費用は、
■「事業費」と「管理費」に区分し、
■それぞれを人件費その他経費に分類したうえで、さらに形態別に分類して表示します。
この内訳表示は、NPO法人間の比較可能性やNPO法人のマネジメント等の観点から求められています。
[注1]活動計算書の表示方法
<人件費>
5.人件費は、役員報酬、給与手当、臨時雇賃金、福利厚生費、退職給付費用等をいう。

<その他経費>
6.その他経費は、経常費用のうち、人件費以外のものをいう。

<財務諸表等規則>

(販売費及び一般管理費の表示方法)

第八十五条 販売費及び一般管理費は、適当と認められる費目に分類し、当該費用を示す名称を付した科目をもつて掲記しなければならない。

その他経費」は、経常費用のうち、「人件費」以外のものをいいます。

人件費」としては、組織の運営や事業を実施する「人」に関わる費用として以下のものがあります。

1.役員報酬

2.給料手当や通勤手当、アルバイト賃金

事業や活動の労働に対して支払われる費用で、事業に従事した人件費は「事業費」、組織全体の経理や労務、理事会や会員管理などの総務に関する業務に従事した人件費は、「管理費」になります。
3.ボランティア評価費用

ボランティアを受入れて「客観的に確定できる場合」は、活動計算書に計上できます。

4.法定福利費

厚生年金や健康保険の「社会保険」や雇用保険と労災保険の「労働保険」の雇用主負担があります。従業員の負担分は、給与から控除して預り金として処理します。

5.退職給付費用

中小企業退職金共済制度に加入して掛金を支払っている場合や、退職金支給規定に基づいて引当金を計上している場合には、当期に発生した金額を退職給付費用として処理します。

6.福利厚生費

健康診断代や従業員の慰労、結婚や親族の不幸などに出る慶弔見舞などが入ります。

[注4]事業費と管理費の区分
<事業費>
18.事業費は、NPO法人が目的とする事業を行うために直接要する人件費及びその他経費をいう。

<管理費>
19.管理費は、NPO法人の各種の事業を管理するための費用で、総会及び理事会の開催運営費、管理部門に係る役職員の人件費、管理部門に係る事務所の賃借料及び光熱費等のその他経費をいう。

<事業費及び管理費の形態別分類>
20.事業費及び管理費は、それぞれ人件費及びその他経費に区分したうえで、形態別に表示しなければならない。

同上

「事業費」は、次の①と②の合計額になります。

明らかに事業に関する経費として特定できる金額

事業部門と管理部門に共通する経費のうち事業を行うために要した経費として合理的に算出された金額

 

「管理費」は、次の③と④の合計額になります。

管理部門の業務を行うために要した費用で、明らかに管理部門に関する経費として特定できる金額

共通経費のうち、管理部門の業務を行うために要した経費として合理的に算出された金額

 

【事業費()の具体例】

ある事業を遂行するために支出した人件費、Tシャツ等の売上原価(仕入れや製作費)、チラシやポスターの印刷費、講師への謝金、会場の賃借料、特定の事業の寄付金の募集のためのファンドレイジング(資金調達)費等

 

【管理費()の具体例】

NPO法人の以下の管理部門の業務を行うために要した費用

[1]総会や理事会といった法人の組織運営、意思決定業務

[2]会報の発行やHPの運営などの広報、外部報告業務

[3]会費や特定の事業目的でない寄付金の募集のためのファンドレイジング業務

[4]日常の経理処理、予算の計画、税務申告等の経理業務

[5]社会保険や労働保険の手続き、給与計算、求人、福利厚生等の人事労務業務

[6]監事等による監査業務

 

【共通経費(②と④)の具体例】

人件費、事務所の賃借料、水道光熱費、通信費、消耗品費、コピー機やパソコンなどの備品の減価償却費等

共通経費の按分方法

事業費と管理費に共通する経費や複数の事業に共通する経費は、合理的に説明できる根拠に基づき按分される必要があり、恣意的な操作は排除されなければなりません。

標準的な按分方法としては、以下のようなものが挙げられ、重要性が高いと認められるものについては、いずれの按分方法によっているかについて注記することが望まれます。

・従事割合(例:人件費 等)

・使用割合(例:消耗品費 等)

・建物面積比(例:事務所賃借料 等)

・職員数比(例:水道光熱費 等)

<少額の資産>
15.消耗品の購入等で少額のものは、実際に支払ったときに費用として計上することができる。
[注1] 重要性の原則の適用について
重要性の原則の適用例としては、次のようなものがある。

消耗品、消耗工具器具備品その他の貯蔵品等のうち、重要性の乏しいものについては、その買入時又は払出時に費用として処理する方法を採用することができる。

文房具などの消耗品も、発生主義の原則に従い、使ったとき費用として処理するのが原則です。

しかし、少額の資産について、たとえ買ったとき費用処理したとしても利害関係者の判断を誤らせることはないので、重要性の観点から、消耗品その他の貯蔵品のうち、重要性の乏しいものについては、その買入時に費用として処理することができます。

したがって、たとえば文房具が期末に少し残っていたとしても棚卸資産に計上する必要はありません。

<定期的に支払う費用>
16.電話代、電気代、家賃等定期的に支払う費用は、実際に支払ったときに費用として計上することができる。
[注1] 重要性の原則の適用について
重要性の原則の適用例としては、次のようなものがある。

前払費用、未収収益、未払費用及び前受収益のうち、重要性の乏しいものについては、経過勘定項目として処理しないことができる。

たとえば3月31日を決算日とする法人が4月分の家賃を3月20日に支払った場合、厳密に言えば4月分の家賃は来年度の費用なので、年度決算では、前払費用として資産に計上すべきです。
しかし、家賃は毎月1回支払って、12回で1年分なので、支払ったときに費用に計上することにしても、毎年そのやり方をするなら、1年分の金額は変わりません。
したがって、重要性の観点から、重要性の乏しいものについては、毎期継続して適用することを条件に、経過勘定項目として処理しないで、実際に支払ったときに費用として処理することができます。