わかるNPO法人会計基準の解説~財務諸表の注記31(5)ボランティアによる役務の提供を受けたことを財務諸表に記載する場合

テーマ:NPO法人会計基準

 

NPO法人会計基準について、制度会計(会社法、金融商品取引法、税法)が尊重すべき企業会計原則と比較しながら、その特徴を、誰もが理解できるやさしい言葉で、分かりやすく解説したいと思います。

今日は、財務諸表の注記(5)ボランティアによる役務の提供を受けたことを財務諸表に記載する場合について見ていきます。

 

ボランティアによる役務の提供を受けたことを計算書類に記載する場合は、情報の利用者の便宜性配慮し、当該金額の算定根拠が明らかになるように、受入れたボランティアの内容、金額、その算定方法を注記します。

 

【企業会計原則とは】

企業会計の実務のなかに慣習として発達したもののなかから、一般に公正妥当と認められたところを要約したものです。企業会計原則は、1982年以来、修正が行われておらず、その後、時代に対応して会計基準が順次公表され、会計慣行を補強しています。

会計基準は、企業会計原則に優先して適用されるべき基準とされ、公正なる会計慣行に含まれると解釈されています。つまり、企業会計原則会計全般の公正なる会計慣行をまとめたものであり、個々の論点に関する会計慣行は、各会計基準に委ねられているのです。

【財務諸表の注記】

NPO法人会計基準(同注解)

企業会計原則(同注解)

解説

<財務諸表の注記>
31.財務諸表には、次の事項を注記する。
 
(5)ボランティアとして、活動に必要な役務の提供を受けたことを財務諸表に記載する場合には、受入れたボランティアの明細及び計算方法 ボランティアとして、活動に必要な役務の提供を受けたことを計算書類に記載する場合は、情報の利用者の便宜性に配慮し、当該金額の算定根拠が明らかになるように、受入れたボランティアの内容、金額、その算定方法などの詳細な記載をします。
その際、ボランティアによる役務の提供の受入れを注記する場合は合理的な算定方法を記載し、活動計算書に計上する場合は客観的な算定方法を記載します。
    NPO会計基準は、ボランティアの受入れをした場合や無償又は著しく低い価格での施設の提供等の物的サービスを受けた場合において、従来どおり会計的に認識しない方法に加え、「合理的に算定できる場合」には注記でき、「客観的に把握できる場合」には注記に加えて活動計算書への計上も可能としています。

NPO法人は、ボランティアによる無償や著しく低い価格での労力の提供に支えられている部分が多く、ボランティアの労力を金額評価しないことにより、NPO法人の真の活動規模が過小評価されているとの問題もかねてから指摘されています。つまり、NPO法人の場合には、ボランティアとして労力が提供されることも多いので、営利企業などと比較して人件費の金額が低くなる傾向があることから、適正な財務比較ができないといった問題があります。
こうした問題点に対応しようという理由から、無償又は著しく低い価格でボランティアによる役務の提供を受けた場合も、ボランティアによる労力の提供を金銭換算して財務諸表で表現することができます。ただし、その表現は団体の任意であり、表現の方法も次に3つから選択することができます。

[1]ボランティアによる役務の提供については、特に会計上の処理や財務諸表への表示行わない
(※事業報告書等にボランティア参加の事実や恩恵等を表示する。)

[2]-1【ステップ1】:そのボランティアによる役務の提供が「活動の原価の算定に必要な受入額である場合」か?

[2]-2【ステップ2】:そのボランティアによる役務の提供の金額を「合理的に算定できる場合」には「財務諸表に注記」する。

[2]-3【ステップ3】:そのボランティアによる役務の提供の金額を「客観的に把握できる場合」には、注記をした上で「活動計算書に計上」する。

なお、活動計算書に計上する際には、「ボランティア受入評価益」と「ボランティア評価費用」をそれぞれ同額で計上し、その金額換算の根拠についても注記において明確にします。

【活動の原価の算定に必要な受入額である場合とは】
ボランティアによる労力の提供を財務諸表に注記したり、あるいは活動計算書に計上する目的は、主に「必要な労力を金銭を支払って調達した場合、事業実施に必要となるコストを把握」することですので、「活動の原価の算定に必要なボランティア」とは、事業の実施に当たって、金銭を支払っても必要とされる範囲のボランティアの労力を指します。

「活動の原価の算定に必要なボランティア」の具体的な事例としては、次のものが挙げられます。
○国際会議やイベントでの通訳ボランティア
○パソコン教室の講師ボランティア
○フリーペーパー発行のための取材・編集ボランティア
○虐待やDV、多重債務者に対する電話相談の受け手ボランティア
○開発途上国で難民支援をするボランティア
○ホームページの作成・更新のためのITスキルを持ったボランティア

一方で、「活動の原価の算定に必要なボランティア」と認識することが困難な事例としては、次のものが挙げられます。
○通常の日常管理業務に従事している無報酬の理事等
○通常の日常管理業務の補助作業に従事するインターンシップの学生等
○同様の事業を行っている営利企業の平均的な給与水準より低い給与支給額で従事している有給スタッフ等

【合理的に算定できる場合とは】
財務諸表に注記できる「合理的に算定できる場合」とは、その金額の算定のために、信頼できる集計の仕組み金銭換算のための単価の使用があることを言います。そのためには、ボランティアの従事時間や車両の走行距離、施設の利用時間等の適切な集計の単位を設定し、信頼性のある資料から、漏れなく(網羅性)、正しく(正確性)、責任のある者によって(正当性)集計される仕組作って運用することが必要です。また、適切な単価によって評価することも必要です。こうした金銭換算の「算定方法」も財務諸表に注記することにしています。

合理的に算定できる場合の具体的な事例としては、次のようなものが考えられます。
○パソコンの得意な会員にホームページの作成を無料(ボランティア)で行ってもらった際に、他のNPO法人の同様な業務の委託料を参考にして算定した。
○10名の通訳のボランティアの活動を、その時間数を記録し、過去の平均的な通訳料を参考に算定した単価で金銭換算した。

【客観的に把握できる場合とは】
活動計算書に計上できる 「客観的に把握できる場合」とは、「合理的に算定できる場合」の要件に加えて、計上されている金額を、外部資料等によって把握できることを意味しています。具体的な金額換算の根拠としては、

・法人所在地における厚生労働省が公表している最低賃金(時間給)を従事時間数で乗じた額
・専門職の技能等の提供によるボランティアに関して、その専門職の標準報酬額をベースに時間給を算定し、それに従事時間を乗じた額

などがあります。

客観的に算定できる場合の具体的な事例としては、次のようなものが考えられます。
○プログラマーにホームページの更新作業を無料(ボランティア)で行ってもらった際に、当プログラマーから過去に頂いた請求書の報酬単価をもって算定した。
○10名の通訳のボランティアの活動を、外部の通訳派遣会社から頂いた経験年数等に応じた報酬表を参考にボランティアごとに算定した。

参考URL

特定非営利活動促進法に係る諸手続の手引き」(内閣府・NPOホームページ)

実務担当者のためのガイドライン」(NPO法人会計基準協議会ホームページ)