NPOの経理に果たす独立した第三者の役割~「租税と憲法との関係」講義を受講して

テーマ:NPOの税務、公認会計士

 

先日、税理士研修に参加し、筑波大学名誉教授・弁護士の品川芳宣先生の「憲法・行政法」の講義を受講しました。

先生のお話になった「租税と憲法との関係」は、非常に興味深い内容でしたので、紹介したいと思います。

また、先生の講義を受けて、あらためて税理士・公認会計士の役割について考えましたので、NPOの経理に果たす「独立した第三者の役割」についてお話したいと思います。

 

【租税と憲法との関係について】

品川先生の講義内容を要約すると以下のとおりです。

そもそも、租税とは「公共部門への強制的給付」であり、国民に税負担を強いることは、憲法が保障する財産権(憲法29条)の侵害に当たる。

第二十九条 財産権は、これを侵してはならない。

 

そのため、租税権力の恣意的な行使を阻止し、法的安定性を確保するため、「法律の根拠なくして課税なし」という租税法律主義(憲法84条)がとられている。

第八十四条 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。

 

しかしながら、法律に定められていれば、すべての課税が許されるというのでは、国民の権利が守られないので、租税訴訟では、国家権力による課税が、法の下の平等(憲法14条)や生存権(憲法25条)に違反しないかが争われる。

第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

第二十五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。

 

講義の最後に先生は、「このように考えると、租税回避的な行動には経済合理性があり、よほど理性的でなければ、そのような欲求を抑えることは難しいが、租税法の専門家として、これまで自らの確定申告について不正を行ったことはない」と話して、笑いを誘っていました。

 

【独立した第三者の役割について】

納税者の租税回避的な欲求を前提とすると、これを制度的に担保する必要があり、適正な納税義務の実現を図っているのが税理士制度です。

税理士には、納税義務者、税務当局のいずれにも偏せず、独立した公正な立場を堅持することが要請されています。

 

また、法人が開示する財務諸表(計算書類)についても、同様のことが言えます。

そもそも、会計情報を開示する目的は、経営者(情報提供者)の持つ優位な情報を利害関係者(情報利用者)に伝えて、情報の偏在を減らすことにあります。

情報偏在の存在は、情報優位者(知っている者)が情報劣位者(知らない者)に対して嘘をつく可能性を生み出します。

経営者は、ありのままを表現することに抵抗があったり、業績をよく見せたいと思うのが自然なので、情報にバイアスを加えようとする誘因があります。

そのため、情報利用者はそのままでは開示情報を信頼することはできないので、これを制度的に担保し、財務諸表に社会的信頼性を付与しているのが公認会計士による監査制度です。

公認会計士には、独立した立場において、財務書類その他の財務に関する情報の信頼性を確保することにより、会社等の公正な事業活動、投資者及び債権者の保護等を図ることが要請されています。

 

NPO法人については、公認会計士又は監査法人による監査が義務付けられていないため、法人の管理体制の一環として、計算書類等について「外部の公認会計士によるチェック」を受け、積極的・自発的に自らの開示情報に信頼性を付与することが求められています。