【わかる公益法人会計基準】正味財産増減計算書の区分[注15]正味財産の振替について

テーマ:公益法人会計基準

 

こんにちは。東京都台東区上野・浅草で開業しているNPO専門の公認会計士・税理士事務所「アイケイ会計事務所」です。

 

公益社団・財団法人や公益認定を申請する一般社団・財団法人などは、公益法人会計基準に準拠して財務諸表を作成することが求められます。

公益法人会計基準について、同じNPO(非営利組織)の会計基準であるNPO法人会計基準と比較しながら、その特徴を分かりやすく解説します。

今日は、公益法人会計基準「正味財産増減計算書の区分」[注15]正味財産の振替について見ていきたいと思います。

 

指定正味財産に区分される寄付によって受け入れた資産について、制約が解除された場合は、その額を指定から一般の部に振り替えます。
 

【公益法人会計基準】

公益法人会計基準は、昭和52年の制定後、平成16年会計基準で全面的な改正がなされ、平成20年会計基準は、公益法人制度改革関連三法の成立を受けて平成20年12月1日以降開始する事業年度から実施するものとされています。

 

【正味財産増減計算書】

公益法人会計基準(同注解)

NPO法人会計基準(同注解)

解説

[注15]指定正味財産の部から一般正味財産の部への振替について
次に掲げる金額は、指定正味財産の部から一般正味財産の部に振り替え、当期の振替額を正味財産増減計算書における指定正味財産増減の部及び一般正味財産増減の部に記載しなければならない。
(1)指定正味財産に区分される寄付によって受け入れた資産について、制約が解除された場合には、当該資産の帳簿価額
(2)指定正味財産に区分される寄付によって受け入れた資産について、減価償却を行った場合には、当該減価償却費の額
(3)指定正味財産に区分される寄付によって受け入れた資産が災害等により消滅した場合には、当該資産の帳簿価額
なお、一般正味財産増減の部において、指定正味財産からの振替額は、その性格に従って、経常収益又は経常外収益として記載するものとする。
<使途等が制約された寄付金等の取扱い>
27.寄付等によって受入れた資産で、寄付者等の意思により当該受入資産の使途等について制約が課されている場合には、当該事業年度の収益として計上するとともに、その使途ごとに受入金額、減少額及び事業年度末の残高を注記する。[注5][注6]
公益法人は、指定正味財産に区分される寄付によって受け入れた資産について、
制約が解除された場合は、当該資産の帳簿価額
減価償却を行った場合は、当該減価償却費の額
災害等により消滅した場合は、当該資産の帳簿価額
をそれぞれ指定正味財産の部から一般正味財産の部に振り替えるものとされています。

①の「制約の解除」は、資産の使途たる事業の実施による制約の解除のことで、指定された事業を行うことにより一般正味財産増減の部に費用が発生するので、費用計上額と同額を指定正味財産の部から一般正味財産の部に振り替えます。
②の「減価償却」は、受け入れた資産の減価償却について、事業実施による費用の発生とみなして、制約の解除に準じて、減価償却費計上額と同額を指定正味財産の部から一般正味財産の部に振り替えます。
③の「災害等による消滅」は、資産の災害損失、有価証券や土地の減損損失について、当該資産の帳簿価額の減少を実質的に制約の解除がなされたものとみなして、損失計上額と同額を指定正味財産の部から一般正味財産の部に振り替えます。

指定正味財産の部から一般正味財産の部への振替額は、指定正味財産増減の部(減少)に「一般正味財産への振替額」を記載し、一般正味財産増減の部(増加)に「受取寄付金振替額」を記載します。

なお、一般正味財産増減の部において、指定正味財産からの振替額(「受取寄付金振替額」)は、その性格に従って、経常収益又は経常外収益として記載するものとされます。

「制約の解除」の考え方は、NPO法人の「使途等が制約された寄付等の内訳の注記」[注5]と同様です。また、指定正味財産の部から一般正味財産の部への振替の会計処理は、NPO法人の「使途等が制約された寄付等で重要性が高い場合の取扱い」[注6]と同様です。下記【参考】参照。

 

参考:NPO法人会計基準

わかるNPO法人会計基準の解説~NPO法人に特有の取引等27使途等が制約された寄付金等の取扱い[注5]

わかるNPO法人会計基準の解説~NPO法人に特有の取引等27使途等が制約された寄付金等の取扱い[注6]

参考図書:公益法人・一般法人の会計実務/公益財団法人公益法人協会

 

【参考】NPO法人会計基準注解

[注5] 使途等が制約された寄付等の内訳の注記

 

NPO法人会計基準注解

解説

21 <使途等が制約された寄付等の内訳の注記>
使途等が制約された寄付等の内訳の注記は以下のように行う。
 
(1) 正味財産のうち使途等が制約された寄付等の金額に対応する金額。 使途が制約された寄付金等には、明確な目的に使用されるべき目的の制約、将来の一定期間または特定日以後に解除される時間の制約、あるいは両者を含むものに区分されます。

こうした使途の制約は、受け入れた資産の制約目的が達成されたとき、時間が経過したとき、あるいはその両者が達成されたときに解除されます。

(2) 制約の解除による当期減少額は次のいずれかの金額による。
受入れた資産について制約が解除された場合、当該資産の帳簿価額。
受入れた資産について減価償却を行った場合、当該減価償却費の額。ただし備品又は車両等については、対象となる資産を購入して、対象の事業に使用したときに制約の解除とみなして当該取得額を減少額とすることができる。
受入れた資産が災害等により消失した場合には、当該資産の帳簿価額。
使途が制約された寄付金等について、制約が解除された場合には「使途等が制約された寄付等の内訳」の注記の当期減少額の欄に記載します。

具体的には、次のような状況を制約の解除として記載します。

(1)寄付者等の意思で定められた使途等が完了した場合

■被災者に支援物資を届けることを目的とする金銭の寄付については、支援物資を購入した時ではなく、実際に被災者に届けた時に制約は解除されたと考えます。

■土地及び建物の寄付については、土地は、永久に制約の解除はありませんが、建物は、減価償却により制約は解除されたと考えます。

■奨学基金として使用するための現金預金の寄付については、現預金を取り崩して奨学金の給付に充てることが条件であれば、給付した金額が制約の解除と考えます。

■事業に使う備品や車両等を購入する目的の金銭の寄付については、購入した備品や車両等の取得価額のうち、減価償却費に相当する金額について、制約が解除されたと考えます。ただし、備品や車両等に使途が指定されている寄付金等の場合は、購入して事業のために使用を開始した時に、制約が解除されたとみなすこともできます。

■一定期間保有することを条件に贈与を受けた株式の寄付については、期間が経過したときに制約が解除されたと考えます。

(2)制約が解除されていない資産が災害等により消失した場合は、消失した部分について制約が解除されたと考えます。

(3)制約が解除されていない資産の時価が著しく下落した場合は、下落した部分について制約が解除されたと考えます。

(3) 返還義務のある助成金、補助金等の取扱い
返還義務のある助成金、補助金等について、受取助成金及び受取補助金として計上した場合、当該計上額を当期受入額として記載する。
なお、助成金及び補助金の合計額並びに未使用額は備考欄に記載することが望ましい。
返還義務のある助成金、補助金等について、内訳の注記を行う場合、「当期増加額」には、実際に入金した補助金等の額ではなく、あくまでも当期に計上した受取補助金等の額(収益計上額)を記載し、当期に事業の実施済みの費用の額を「当期減少額」に記載するので、「当期増加額」と「当期減少額」は同額となり「期末残高」は0となります。
そのため、収益計上額以外に、補助金等の総額や、決算期末での未使用額も一緒に見ることができる方がわかりやすいので、こうした情報(補助金等の合計額及び未使用額)を注記の「備考」欄に記載することが望まれます。

[注6] 使途等が制約された寄付等で重要性が高い場合の取扱い

 

NPO法人会計基準注解

解説

22 <使途等が制約された寄付等で重要性が高い場合の取扱い>
使途等が制約された寄付等で重要性が高い場合には、次のように処理する。
 
(1) 貸借対照表の正味財産の部を、指定正味財産及び一般正味財産に区分する。 期末時点でまだ使途どおりに使っていない金額は、貸借対照表の「正味財産の部」に「指定正味財産」として計上します。以下の設例で言えば、3,000万円が「指定正味財産」として計上されます。
(2) 活動計算書は、一般正味財産増減の部及び指定正味財産増減の部に区分する。 期末時点でまだ使途どおりに使っていない金額は、活動計算書の「指定正味財産増減の部」に「指定正味財産期末残高」として表示します。以下の設例で言えば、3,000万円が「指定正味財産期末残高」として表示されます。
(3) 使途等が制約された寄付等を受入れた場合には、当該受入資産の額を貸借対照表の指定正味財産の部に記載する。また寄付等により当期中に受入れた資産の額は活動計算書の指定正味財産増減の部に記載する。 使途が制約された寄付金について重要性が高い場合の会計処理について具体例をあげて仕訳を示すと、次のようになります。

(例)今期に集まった寄付金は5,000万円、そのうち2,000万円を被災者支援用物資に使用した場合

[1]寄付金の受入時

(借)現金預金 5,000万円

(貸)受取寄付金〈指定〉 5,000万円

「現金預金」を貸借対照表の流動資産に計上するとともに、「受取寄付金」を活動計算書の指定正味財産増減の部(増加)に計上します。

[2]援助用物資5,000万円の購入時

(借)被災者援助物資 5,000万円

(貸)現金預金 5,000万円

「被災者援助物資」を貸借対照表の流動資産に計上するとともに、「現金預金」を貸借対照表の流動資産の減少とします。

(4) 使途等が制約された資産について、制約が解除された場合には、当該解除部分に相当する額を指定正味財産から一般正味財産に振り替える。 [3]被災者へ援助物資2,000万円を届ける。

(借)事業費:援助用消耗品費 2,000万円

(貸)被災者援助物資 2,000万円

「援助用消耗品費」を活動計算書の一般正味財産増減の部に計上するとともに、「被災者援助物資」を貸借対照表の流動資産の減少とします。

[4]寄付者による制約の解除額を一般正味財産へ振替える。

(借)一般正味財産への振替額〈指定〉 2,000万円

(貸)受取寄付金振替額〈一般〉 2,000万円

一般正味財産への振替額」を活動計算書の指定正味財産増減の部(減少)に計上するとともに、「受取寄付金振替額」を活動計算書の一般正味財産増減の部(増加)に計上します。

(5) 指定正味財産から一般正味財産への振替額の内訳は財務諸表に注記する。 指定正味財産から一般正味財産への振替額2,000万円を「指定正味財産から一般正味財産への振替額の内訳」の注記に次のように記載します。

経常収益への振替額
当年度の被災者支援に対する振替額 2,000万円