公益法人会計基準について~資産の貸借対照表価額

テーマ:公益法人会計基準

 

こんにちは。東京都台東区上野・浅草で開業しているNPO専門の公認会計士・税理士事務所「アイケイ会計事務所」です。

 

公益社団・財団法人や公益認定を申請する一般社団・財団法人などは、公益法人会計基準に準拠して財務諸表を作成することが求められます。

公益法人会計基準について、同じNPO(非営利組織)の会計基準であるNPO法人会計基準と比較しながら、その特徴を分かりやすく解説します。

第3回の今日は、公益法人会計基準「資産の貸借対照表価額」について見ていきたいと思います。

 

【公益法人会計基準】

公益法人会計基準は、昭和52年の制定後、平成16年会計基準で全面的な改正がなされ、平成20年会計基準は、公益法人制度改革関連三法の成立を受けて平成20年12月1日以降開始する事業年度から実施するものとされています。

 

【資産の貸借対照表価額】

公益法人会計基準(同注解)

NPO法人会計基準(同注解)

解説

3 資産の貸借対照表価額
(1)資産の貸借対照表価額は、原則として、当該資産の取得価額を基礎として計上しなければならない。交換、受贈等によって取得した資産の取得価額は、その取得時における公正な評価額とする。[注8]
[注2] 貸借対照表の表示方法及び計上額
<資産の貸借対照表価額>
10.資産の貸借対照表価額は、原則として、当該資産の取得価額に基づき計上しなければならない。

NPO法人に特有の取引等
<現物寄付の取扱い>
24.受贈等によって取得した資産の取得価額は、取得時における公正な評価額とする。

現行の制度会計では、原則的に資産は取得原価主義で評価されます。
取得原価とは、文字どおり、資産を取得したときの金額です。取得原価は、過去に経験した評価額であるため、検証可能であり、明瞭、簡便、かつ、統一性のある方法です。また、取得原価主義においては、資産の評価で評価益が計上される余地はありません

現物寄付を受けた固定資産等については、その取得時における公正な評価額を取得価額とします。
「公正な評価額」としては、市場価格によるほか、専門家による鑑定評価額や、固定資産税評価額等を参考に合理的に見積もられた価額等が考えられます。

(2)受取手形、未収金、貸付金等の債権については、取得価額から貸倒引当金を控除した額をもって貸借対照表価額とする。 [注2] 貸借対照表の表示方法及び計上額
<引当金>
16.将来の特定の費用又は損失であって、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、かつその金額を合理的に見積ることができる場合には、当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰入れる。

債権は、将来発生が見込まれる貸倒見積高を算定し、貸倒引当金として債権から控除する形で貸借対照表に計上されます。

引当金が計上できるのは、次のすべての要件を満たしたときです。

[1]将来の特定の費用又は損失であって、

[2]その発生が当期以前の事象に起因し、

[3]発生の可能性が高く、

[4]その金額を合理的に見積ることができる

代表的な例が、評価性引当金である貸倒引当金や負債性引当金である賞与引当金、退職給付引当金です。

【貸倒引当金について】

公益法人は、債権に対する貸倒見積高の算定に関して、企業会計の「金融商品に関する会計基準」「金融商品会計に関する実務指針」等に従って処理することとなります。

【退職給付引当金について】

公益法人会計においては、平成16年会計基準より退職給付会計が導入され、退職給付引当金の算定に当たっては、企業会計の「退職給付に係る会計基準」「退職給付会計に関する実務指針」等に従って処理することとなっています。

なお、平成20年会計基準運用指針において、退職給付会計の適用に当たり、退職給付の対象となる職員数が300人未満の公益法人のほか、職員数が300人以上であっても、年齢や勤務期間に偏りがあるなどにより数理計算結果に一定の高い水準の信頼性が得られない公益法人や原則的な方法(数理計算)により算定した場合の額と期末要支給額との差異に重要性が乏しいと考えられる公益法人においては、退職一時金に係る債務について期末要支給額(簡便法)により算定することができるものとされています。

(3)満期まで所有する意思をもって保有する社債その他の債券(以下「満期保有目的の債券」という。)並びに子会社株式及び関連会社株式については、取得価額をもって貸借対照表価額とする。
満期保有目的の債券並びに子会社株式及び関連会社株式以外の有価証券のうち市場価格のあるものについては、時価をもって貸借対照表価額とする。[注9][注10][注11]

平成20年会計基準では、有価証券はその保有目的により次の3つに分類されます。
・満期保有目的の債券
・子会社株式及び関連会社株式
・その他有価証券(満期保有目的の債券並びに子会社株式及び関連会社株式以外の有価証券)

満期保有目的の債券」とは、「満期まで所有する意思を持って保有する」社債その他の債券です。

子会社株式」とは、公益法人が営利企業の議決権の過半数を保有している場合の当該営利企業の株式をいい、「関連会社株式」とは、公益法人が営利企業の議決権の20%以上50%以下を保有している場合の当該営利企業の株式をいいます。 子会社株式及び関連会社株式については、取得価額をもって貸借対照表価額とします。

(注)議決権の過半数の株式等の保有については、公益認定の適合基準上制限されています。ただし、例えばその一部を無議決権株式にするか、議決権を含めて受託者に信託することで認定基準を満たすことが可能とされています。

その他有価証券」のうち市場価格のあるものについては、時価をもって貸借対照表価額とし、市場価格のないものについては、取得価額をもって貸借対照表価額とします。

[注9]満期保有目的の債券の評価について
満期保有目的の債券を債券金額より低い価額又は高い価額で取得した場合において、取得価額と債券金額との差額の性格が金利の調整と認められるときは、償却原価法に基づいて算定された価額をもって貸借対照表価額としなければならない。

[注1]重要性の原則の適用について
重要性の原則の適用例としては、次のようなものがある。
(2)取得価額と債券金額との差額について重要性が乏しい満期保有目的の債券については、償却原価法を適用しないことができる。

満期保有目的の債券については、取得価額をもって貸借対照表価額としますが、債券金額より低い価額又は高い価額で取得した場合において、取得価額と債券金額との差額の性格が金利の調整と認められるときは、償却原価法に基づいて算定された価額をもって貸借対照表価額としなければなりません。

「償却原価法」とは、取得価額と債券金額(額面)との差額について、償還期に至るまで毎期一定の方法で取得価額に加減(受取利息に含めて処理)する方法です。
受取利息の期間配分方法には「利息法」と「定額法」の2つがあります。

なお、取得価額と債券金額との差額について重要性が乏しい場合は、償却原価法を適用しないで、取得価額をもって貸借対照表価額とすることができます。

[注10]満期保有目的の債券並びに子会社株式及び関連会社株式以外の有価証券について
満期保有目的の債券並びに子会社株式及び関連会社株式以外の有価証券のうち市場価格のあるものについては、時価評価に伴って生じる評価差額は、当期の正味財産増減額として処理するものとする。

その他有価証券のうち市場価格のあるものについては、時価をもって貸借対照表価額とし、時価評価に伴って生じる評価差額は、当期の正味財産増減額として処理します。

具体的には、取得価額より時価が高い場合は評価益が、取得価額より時価が低い場合は評価損が、指定正味財産を充当した有価証券の評価損益については「指定正味財産増減の部」に、一般正味財産を充当した有価証券の評価損益については「一般正味財産増減の部」にそれぞれ計上されます。

[注11]指定正味財産に区分される寄付によって受け入れた有価証券の会計処理について
指定正味財産に区分される寄付によって受け入れた有価証券を時価又は償却原価で評価する場合には、従前の帳簿価額との差額は、正味財産増減計算書上、指定正味財産増減の部に記載するものとする。

指定正味財産に区分される寄付によって受け入れた有価証券(基本財産又は特定資産)を時価で評価する場合又は償却原価で評価する場合には、当該評価損益及び受取利息は、正味財産増減計算書上、「指定正味財産増減の部」に記載するものとされています。

なお、実際に利息や配当金を収受した場合には、その受取利息等は、寄付者等の意思により制約が課されている場合を除いて、正味財産増減計算書上、「一般正味財産増減の部」に記載します。

(4)棚卸資産については、取得価額をもって貸借対照表価額とする。
ただし、時価が取得価額よりも下落した場合には、時価をもって貸借対照表価額とする。
[注2]貸借対照表の表示方法及び計上額
<棚卸資産>
11.棚卸資産は、取得価額をもって貸借対照表価額とする。ただし、時価が取得価額よりも下落した場合は、時価をもって貸借対照表価額とすることができる。
棚卸資産は、取得価額と時価とを比較して、どちらか低いほうの価額で評価します。これを低価法といいます。

公益法人は、棚卸資産の評価については、低価法の適用が強制されます。

【平成16年会計基準から平成20年会計基準への変更点】
平成16年会計基準・・・時価が取得価額よりも下落した場合には、時価をもって貸借対照表価額とすることができる
平成20年会計基準・・・時価が取得価額よりも下落した場合には、時価をもって貸借対照表価額とする

(5)有形固定資産及び無形固定資産については、その取得価額から減価償却累計額を控除した価額をもって貸借対照表価額とする。 <固定資産の計上>
19.購入した固定資産は、原則として当該資産の取得価額を基礎として計上しなければならない。

[注2]貸借対照表の表示方法及び計上額
<固定資産>
12.有形固定資産及び無形固定資産は、取得価額から減価償却累計額を差し引いた価額をもって貸借対照表価額とする。
固定資産の取得価額は、購入の代価に、運送、据え付け等のための付随費用を加えた価額をいう。

固定資産は、棚卸資産と同様に取得時は取得価額で評価され、その後の減価償却によって、計画的・規則的に費用配分が行われます。

固定資産の価値(経済的効用)が減少していく理由には、物質的な要因と機能的な要因があります。
物質的な要因としては、時の経過による老朽化と、使用による自然的な減耗・損耗等があります。
機能的な要因としては、新開発・新発明によってすぐれた設備が登場したことによる価値の低下、いわゆる陳腐化が挙げられます。
減価償却は、このような減価要因を認識するために、固定資産の取得原価をその使用可能な期間(耐用年数)にわたって、一定の規則的な方法に従って配分する会計手続です。
この減価償却の方法には、主に「定率法」、「定額法」等があり、法人がその適用方法を選択します。
また、恣意的な耐用年数の決定を排除するという観点から、法人税法における耐用年数を使用するのが一般的です。

(6)資産の時価が著しく下落したときは、回復の見込みがあると認められる場合を除き、時価をもって貸借対照表価額としなければならない。
ただし、有形固定資産及び無形固定資産について使用価値が時価を超える場合、取得価額から減価償却累計額を控除した価額を超えない限りにおいて使用価値をもって貸借対照表価額とすることができる。
[注2] 貸借対照表の表示方法及び計上額
<資産の貸借対照表価額>
10.資産の貸借対照表価額は、原則として、当該資産の取得価額に基づき計上しなければならない。
ただし、資産の時価が著しく下落したときは、回復の見込みがあると認められる場合を除き、時価をもって貸借対照表価額としなければならない。

時価のある資産の時価が「著しく下落した」ときは、「回復の見込みがあると認められる場合」を除き、時価をもって貸借対照表価額としなければなりません

著しく下落した」ときとは、時価が帳簿価額から概ね50%を超えて下落している場合をいいます。

回復の見込みがあると認められる場合」とは、時価の下落が一時的なものであり、期末日後おおむね1年以内に時価が取得原価にほぼ近い水準にまで回復する見込みのあることを合理的な根拠をもって予測できる場合を言います。つまり、将来回復すると証明できるような水準を言いますから、どちらかわからない、というレベルでは「回復見込みがない」と判断します。

ただし、有形固定資産及び無形固定資産について「使用価値」が時価を超える場合には、取得価額から減価償却累計額を控除した価額(=帳簿価額)を超えない限りにおいて、使用価値をもって貸借対照表価額とすることができるものとされています。

使用価値」とは、資産(又は資産グループ)の継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュ・フローの現在価値のことです。

[注8]外貨建の資産及び負債の決算時における換算について
外国通貨、外貨建金銭債権債務(外貨預金を含む。)及び外貨建有価証券等については、子会社株式及び関連会社株式を除き、決算時の為替相場による円換算額を付すものとする。
決算時における換算によって生じた換算差額は、原則として、当期の為替差損益として処理する。
<外貨建取引の換算方法>
21.外貨建取引は、取引発生時の為替相場に基づく円換算額で計上しなければならない。

[注2]貸借対照表の表示方法及び計上額
<外貨建債権債務>
14.外国通貨、外貨建金銭債権債務(外貨預金を含む)、外貨建有価証券等については、決算時の為替相場に基づく円換算額を付する。

取引価額が外国通貨で表示されている取引を外貨建取引といいます。

外貨建取引発生したときに円換算する場合には、その取引が発生した日の為替レートで換算します。

期末に外貨建ての資産・負債がある場合は、期末日の為替レートで換算します。

《設例》

ドル建て500ドルの物品の購入について、設例を示すと次のようになります。

[1]購入時(3月10日、当日の為替レートは90円/ドル)

取引発生時の為替レートが90円/ドルであるため、円貨額90円×500ドル=45,000円で計上します。

[2]決算時(3月31日、決算日の為替レートは95円/ドル)

期末日現在において500ドルの未払金残高がありますので、決算時の為替レート95円/ドルで換算替えし、円貨額95円×500ドル=47,500円で貸借対照表に計上します。為替換算により生じた差額5円×500ドル=2,500円は正味財産増減計算書(活動計算書)に計上します。

決算日において生じた為替換算損益は、「為替差損」もしくは「為替差益」で処理し、「為替差損」は経常費用として、「為替差益」は経常収益として計上します。

[3]支払時(4月30日、当日の為替レートは100円/ドル)

4月30日の為替レートで計算した円貨額100円×500ドル=50,000円を支払います。したがって、決算時の為替レートと異なるために決済時に生じた差額5円×500ドル=2,500円は正味財産増減計算書(活動計算書)に計上します。

決済日において生じた為替決済損益は、「為替差損」もしくは「為替差益」で処理し、「為替差損」は経常費用として、「為替差益」は経常収益として計上します。

[注1]重要性の原則の適用について
重要性の原則の適用例としては、次のようなものがある。
(4)ファイナンス・リース取引について、取得したリース物件の価額に重要性が乏しい場合、通常の賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理を行うことができる。
[注2]貸借対照表の表示方法及び計上額
<リース取引>
15.リース取引については、事実上物件の売買と同様の状態にあると認められる場合には、売買取引に準じて処理する。ただし、重要性が乏しい場合には、賃貸借に準じて処理することができる。
公益法人は、リース取引の会計処理について、企業会計の「リース取引に関する会計基準」「リース取引に関する会計基準の適用指針」に準じて次のように行うことになります。

リース取引については、事実上売買と同様の状態にあると認められる場合には、通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理します。ただし、重要性が乏しい場合には、通常の賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理することができます。

売買処理」するリース取引は、リース取引が事実上物件の売買と同様の状態にあると認められる場合です。リース取引が事実上物件の売買と同様の状態にあると認められる場合とは、
①(解約不能)リース契約に基づくリース期間の途中で、契約を解除することができないリース取引で、
②(フルペイアウト)リース料総額がそのリース資産を実際に購入した場合とほとんど変わらない、または、リース期間がそのリース資産の経済的耐用年数とほとんど変わらない
場合をいい、このようなリース取引を「ファイナンス・リース取引」と呼びます。

売買処理」では、固定資産を新規に購入した場合と同様に、その固定資産をリース資産として貸借対照表に計上し、その資産に対して毎期減価償却を行ないます。また、リース会社に対する債務をリース債務として負債の部に計上し、毎月一定額の支払の都度、その負債の残高を減らしていくという会計処理をします。

賃貸借処理」では、リース会社にリース料を支払ったときにその金額を費用として計上します。

[注1]重要性の原則の適用について
重要性の原則の適用例としては、次のようなものがある。
(5)法人税法上の収益事業に係る課税所得の額に重要性が乏しい場合、税効果会計を適用しないで、繰延税金資産又は繰延税金負債を計上しないことができる。

税効果会計とは、会計上の収益又は費用と、法人税法における課税所得計算上の益金又は損金の認識時点の相違等により、会計上の資産又は負債と課税所得計算上の資産又は負債の額に相違がある場合に、法人税等の額を適切に期間配分することにより、法人税等を控除する前の当期正味財産増減額と法人税等を合理的に対応させることを目的とする手続です。

公益法人が、
①法人税法上の収益事業を実施しており、
②収益事業に係る課税所得の額に重要性があり、
③一時差異(会計上の資産及び負債の金額と課税所得計算上の資産及び負債の金額との差額)等に係る税金の額に重要性がある
場合は、税効果会計を適用することになります。

 

参考:NPO法人会計基準

NPO法人会計基準について~収益及び費用の把握と計算(その2)棚卸資産と固定資産

NPO法人会計基準について~収益及び費用の把握と計算(その2)外貨建取引、リース取引、引当金

参考図書:公益法人・一般法人の会計実務/公益財団法人公益法人協会